社会正義とアティテューディナル・ヒーリング(AH)

オークランドのセンター

Oakland

 私(水島)が米国でサウサリートのセンターと同様、あるいはそれ以上に関わりを持ったのが、オークランドのアティテューディナル・ヒーリング・センターです。その理由の一つは、オークランドのセンターが、「社会正義」に力を入れているユニークなセンターだからです。オークランドのセンターの代表は、ココモンとアイーシャという黒人のカップルです。

アイーシャはアメリカ南部に生まれ、バークレー大学時代に人種差別の激しさからブラック・ムスリム運動に目覚めた女性ですが、後にアティテューディナル・ヒーリングと出会います。白人を敵とみなすブラック・ムスリム運動から、愛と許しのアティテューディナル・ヒーリングへと軸足を移したアイーシャの半生は、「Beyond Fear」という著書で大変うまく描かれています。

 一方、夫のココモンは、アフリカ・ガーナ生まれで、アメリカに移民してきた人です。アメリカに憧れて移住してきたミュージシャンのココモンは、アメリカで初めて人種差別に直面し、世界レベルでの癒しの必要性を感じたそうです。オークランドのセンターには、「アフリカ太鼓の瞑想」というグループがありますが、これはココモンなくしてはできない活動です。

人種差別は「致命的な病」

 アメリカには良い面もたくさんありますが、悪い面もたくさんあります。その一つが、明らかに、人種差別です。アメリカの中でも最も多様性に富んだカリフォルニアにあっても、特に黒人に対する人種差別は根強く感じます。(ちなみに、私がいろいろなアメリカ人にヒラリー・クリントンが初の女性大統領になると思うかと尋ねると、ほとんどの人が否定的ですが、「女性が大統領になる日」と「黒人が大統領になる日」とどちらが先かという議論を持ちかけると、かなり議論が沸騰します。つまり、どちらも未だにかなり差別されているということなのです)

 アイーシャとココモンは、人種差別を「致命的な病」と呼んでいます。確かに、暴動で命を落とす人もいるし、黒人だという理由だけで(それもしばしば冤罪で)警官の銃弾に倒れる人もいるし、人種問題で命を落とす人は少なくありません。また、黒人に生まれたゆえに、自尊心の問題を深く抱えて自殺する人もいます。確かに「致命的な病」です。

 そして、この「致命的な病」に対して、アティテューディナル・ヒーリングのアプローチこそが有効なのだ、ということを訴えています。

 それには私も完全に同感です。人種差別に限らず、差別の問題を解決していくにあたって、アティテューディナル・ヒーリングのアプローチは、私が現在唯一有効だと思えるものだからです。私が国会での活動を通して身をもって学んできたことのエッセンスでもあります。

「攻撃」は助けを求める叫び

 アティテューディナル・ヒーリングの原則の12「どんな人も、愛を差し伸べているか助けを求めているかのどちらかととらえることができる」というのは、個人的な人間関係においても役立ちますが、政治活動などをするときには特に役に立つ考え方です。自分を攻撃しているように見える人は、実は助けを求めて叫んでいる人に他ならない、ということです。私自身、アティテューディナル・ヒーリングに出会う前に、このことには気づいていました。拙著「国会議員を精神分析する」にも、人の話を聞こうとしない人の不安の強さについて書きましたが、現在日本で大きな問題になっているジェンダー・バッシング(男女共同参画の流れに対する揺り戻し現象)なども、まさに不安に基づく行動です。

 「バッシング」などは、一見すると「攻撃」に見えます。私も、男女共同参画や平和を目指す言動について、いろいろな「攻撃」を受けてきました。でも、私は自分が「攻撃」されているとは考えず、相手の「不安」としてとらえるように努めてきました。そうすれば、自分がぐらつかないのはもちろんのこと、相手が理解可能な存在になりますし、歩み寄りが可能になります。

 相手の「攻撃」を攻撃としてとらえてしまうと、今度はこちらの不安が喚起されます。そして、逃げるか、反撃するか、という形をとることになります。どちらも、問題解決をますます難しくしていきます。

 国会にいたときに、私の法案修正率が高かったのは、基本的にこの姿勢をとっていたからだと思います。

「攻撃」に愛を返してきたアイーシャ

 オークランドのセンターの代表であるアイーシャは、まさに「攻撃」に対して愛を返してきた人です。彼女は様々な差別にあってきました。例えば、孫娘が生まれたときに、貸しオムツのサービスを受けようとしたら、(黒人が多く住む)治安の悪い地域だから配達できない、と言われたとき、彼女は怒るのではなく、心の平和を保ちながら、担当の女性に「あなたが初めて赤ちゃんを産んだ母親だったら、どう思う?」と語りかけ、最終的にオムツの配達を可能にしました。また、中華料理のレストランで、黒人にはサービスをしないと断られたときにも、怒らず、「あなたがサービスしたくないと言うのなら、それはあなたの選択でしょう。でも、あなたの言動から、この店の若い従業員たちがどういうことを学ぶか、考えてみてください」と語りかけ、最終的には求めていたサービスを受けました。

 こうした差別を受けたときに、アイーシャが(正当な)怒りを相手にぶつけていたとしたら、どうなったでしょうか。相手との溝はますます深まったでしょう。そして、相手に、人種問題を考え直させる機会を与えることもできなかったでしょう。

 これらの感動的なエピソードが詰まった「Beyond Fear(怖れを超えて)」という著書は本当にお勧めです。人種問題の解決はここにしかないだろう、という気持ちにさせてくれます。日本語に翻訳できれば良いのですが、どちらか関心のある出版社をご存知でしたらご紹介ください。

社会正義に向けての予防的活動

オークランドは治安の悪さで有名な場所ですが、そんなオークランドならではの活躍を、センターはしています。

 その一つが、アート・エスティームというユニークな活動です。学童保育のような形で、アティテューディナル・ヒーリングの原則を取り入れながら、子どもたちに絵などのアートをさせるのです。これには約600人の子どもが参加しています。崩壊家庭が多い中では大変価値のあることです。

 もう一つ、最近始まったユニークな活動は、オークランド市の修復的司法の一翼を担うという活動です。このミーティングは毎月第二金曜日に行われています。修復的司法には国会時代から関心を持っていましたが、アティテューディナル・ヒーリングがぴったりです。

オークランドのThe Attitudinal Healing Connection of Oaklandのホームページ

アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン(AHジャパン)ホームページ